大判例

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東京地方裁判所 平成元年(ワ)14140号 判決 1990年8月27日

原告

株式会社第一勧銀ハウジング・センター

右代表者代表取締役

後藤寛

右訴訟代理人弁護士

尾﨑昭夫

川上泰三

額田洋一

右訴訟復代理人弁護士

新保義隆

被告

飯野幸久

大関英昭

右二名訴訟代理人弁護士

今村征司

瀬野俊之

被告両名補助参加人

小郷建設株式会社

右代表者代表取締役

小郷利夫

被告両名補助参加人

株式会社東京企画

右代表者代表取締役

小郷栄子

右二名訴訟代理人弁護士

小山晴樹

渡辺実

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用(参加によって生じた訴訟費用を含む。)は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

1  被告らは、原告に対し、各自金一五一〇万一六六七円及び内金一四九八万七〇一七円に対する昭和五九年七月二三日から支払い済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら及び被告両名補助参加人ら

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は、昭和五九年五月二五日、被告飯野幸久に対し、金一五〇〇万円を左記約定にて貸し渡した。

最終弁済期 昭和八四年五月二二日

利率 月利0.765パーセント

返済方法 昭和五九年六月以降毎月二二日限り、元利均等返済方式にて、元利金一二万七七三三円宛て支払う。

期限の利益の喪失 同被告が元利金の弁済を一回でも怠ったときは当然に期限の利益を喪失する。

損害金 年一四パーセント(年三六五日の日割計算)

(二)  被告飯野幸久は、昭和五九年七月二二日の第二回の弁済期日に右元利金の支払いをしなかった。

2  被告大関英昭は、昭和五九年五月二五日、原告に対し、被告飯野幸久の前項1(一)による債務を連帯して保証する旨約した。

3  よって、原告は、右消費貸借契約及び保証契約に基づき、被告各自に対し、貸金残元本金一四九八万七〇一七円並びにこれに対する昭和五九年六月二三日から同年七月二二日まで約定利率一か月0.765パーセントの割合による利息(金一一万四六五〇円)及び同年七月二三日から支払い済みまで約定利率年一四パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否(被告ら及び補助参加人ら)

請求原因1の(一)、(二)、同2を否認し、同3を争う。同1(一)については、被告飯野幸久は、貸金を受け取っておらず、金銭消費貸借契約は、成立していない。

三  抗弁(被告ら及び補助参加人ら)

1  相殺

被告飯野幸久は、株式会社都市開発との間に、板橋区若木二丁目所在のヴィラ若木三〇四号室について売買代金一九〇〇万円とする売買契約を締結し、この売買代金に充てるため請求原因1のとおりの消費貸借契約を締結し、貸付金は同被告名義の金融機関の口座に振込まれたところ、原告の社員伊藤九州男は、同金員を原告において預り、売り主株式会社都市開発に対し原告が支払う旨申し向けたため、同被告は、同金融機関から右振込金の払い戻しを受けるための払戻し請求書を、原告に預けた。右売買契約においては、右振込にかかる金一五〇〇万円の支払いと売買物件の所有権移転登記手続きとを同時履行とする旨の約定であったが、原告は、この被告に対する移転登記手続きの履行を図らずに、右振込金を他の融資にかかる不動産取引に使用して株式会社都市開発に支払い、同被告への移転登記は未了のままになっている。

右のような原告の振込金の使用は、同被告に対する背任罪を構成する不法行為に当たるものというべく、この不法行為日は、右払戻し請求書を原告において預った、昭和五九年五月二五日であり、損害額は、右売買対象物件の価格金一九〇〇万円に相当するものというべきである。

同被告は、平成二年二月二六日の本件口頭弁論期日において、原告に対し、右損害賠償請求債権をもって、原告の本訴請求債権と対当額において相殺する旨の意思表示をした。

2  消滅時効

原告は、本件貸付時、住宅ローン貸付を業とする株式会社であり、本件貸付は商行為であり、本件貸金債権の期限の到来した昭和五九年六月二二日(原告主張によれば、同年七月二二日)から五年が経過した。

被告らは、右時効を援用する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、原告側において、金融機関の預金口座に振込まれた本件貸金について主張のような関与をしたこと、被告飯野幸久と株式会社都市開発との間の不動産売買契約において、代金支払いと売買物件の所有権移転登記手続きを同時履行とする旨約定がなされたことを否認し、原告が不法行為による損害賠償債務を負うとの主張を争う。

2  同2のうち、原告が、本件貸付時、住宅ローン貸付を業とする株式会社であったことを認め、本件貸金債権が時効により消滅したことは争う。

五  再抗弁(時効の中断)

1  原告は、昭和五八年一〇月七日、株式会社都市開発との間に、原告の住宅ローン貸付により生ずる顧客の各貸金債務を被保証債務(請求原因1のとおり貸付により被告飯野の本件貸金債務も同被保証債務に含まれることとなった。)とし、この債務の極度額を一億一〇〇〇万円とする連帯根保証契約を締結し、この連帯保証債権を担保するため、昭和五九年二月九日、補助参加人らとの間に、同人ら所有の各土地建物について、極度額一億一〇〇〇万円とする根抵当権設定契約を各締結した。

原告は、右各根抵当権に基づき補助参加人ら所有の不動産について各競売申立て(昭和五九年一〇月二六日に東京地方裁判所、同日に千葉地方裁判所佐倉支部<補助参加人小郷建設所有物件につき>)をし、各競売開始決定(同月二九日東京地方裁判所、同月三〇日千葉地方裁判所佐倉支部)がなされ、同各決定は株式会社都市開発に送達(同年一一月一四日東京地方裁判所、同年一二月二八日千葉地方裁判所佐倉支部)された。そして、千葉地方裁判所佐倉支部の右競売事件においては、昭和六三年五月一六日に配当期日が開かれ、原告は、同期日に先立ち株式会社都市開発についての債権計算書を提出し、同裁判所により同計算書を基にした配当表が作成されて、株式会社都市開発に対し配当期日の呼出状が送達され、原告において同期日に配当金受領のため出頭した。

2  本件貸金を被保証債務とする連帯保証債務を被担保債務とする根抵当権に基づく不動産競売手続きは、本件貸金債務の連帯保証人たる株式会社都市開発に対する民法四三四条所定の請求に該当する裁判上の催告としての効果を有するものというべきであり、同催告の効果は主債務者たる被告飯野幸久に及んで、同被告に対する催告による時効の中断事由が生じ(競売手続き係属中その効果は継続)、同被告に対する本訴訴え提起をもって確定的な時効中断の効力が生じた。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1を認める。

2  同2を争う。補助参加人らになされた右不動産競売手続きは、株式会社都市開発に対する時効中断事由としての差押えの効力はあっても、同事由たる裁判上の催告としての効果を有するものということはできず、民法四三四条所定の請求に該当しないから、被告らに対する時効中断事由たりえず、時効中断の効力は生じない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1(金銭消費貸借契約の成立等)について。

<証拠>によれば、請求原因1の(一)、(二)の事実を認めることができ、この認定を覆すに足る証拠はない。

二1  抗弁2(消滅時効)について。

原告が右金銭消費貸借契約締結時に株式会社であったことは、当事者間に争いがなく、これによれば、本件貸金債権は、商行為により生じたものであり、その権利を行使しうべき時(昭和五九年七月二二日)から五年が経過しており、被告らが、これによる消滅時効を援用したことは、当裁判所に顕著な事実である。

2  再抗弁(時効中断)について。

(一)  再抗弁1の事実は、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、本件貸金債務の連帯保証人に対する催告がなされたか否かを検討する。

原告は、再抗弁2のとおり、右催告は、本件貸金債務の連帯保証人の連帯保証債務を被担保債務とする不動産競売がなされることにより、同競売には、被担保債務の履行請求の意思が含まれ、同意思は同競売手続き係属中不断に継続しているいわゆる裁判上の催告の効力があるので、この効力によるものであると、主張している。

ところで、民法一五三条所定の時効中断事由としての催告は、債務者に対しその債務の履行を請求する意思の通知というべきところ、不動産競売は、催告をさらに進めた請求の現実的な実行であって、時効中断事由として法が明確に定めている差押えの効力を有するものであり、また、同手続き中においてなされる債務者への通知その他の呼出し等も、右請求の実行を目的としてそれに資する措置であり、しかも債務者へのそれら諸々の告知は、断片的で不連続である。そのような目的と状況の手続き係属の場において、概括的、準備的な履行請求の意思が終始存することを観念していくことは、疑問である。

さらに、催告による時効中断は、本来、催告の事由が生じた時から六か月以内に明確な中断事由の行使をすることが必要とされ、この六か月の期間を猶予伸張するには、債権者において同期間中他の明確な中断事由の行使をすることを期待するのが不合理である等の特段の事情が、必要とされ、いわゆる裁判上の催告も、特段の事情が当該裁判手続き遂行について認められる場合に、その効力が認められるものというべきである。しかるところ、右のとおりの不動産競売にあって、同手続きによる時効中断事由としては、差押えの効力はあるが、裁判上の請求としての効力があるとは、解されず、裁判上の請求と不動産競売手続きとの間に、制度及び運用上明確な区別が存し、同手続き係属中に、時効進行中で確定的に時効中断の生じていない債務者に対する債権者の措置として、同手続きの遂行を期待するしかなく、別途有効、的確な時効中断事由を講ずることを期待することが不合理であるとする事情は、見出し難いというべきである。すると、本来、差押えとしての時効中断事由を有する同手続きに、暫定的な時効中断事由が、同手続き係属中にわたり存すると解することは相当でない。

そうしてみると、不動産競売手続きにおいては、右裁判上の催告の効力を有するものとはいえないから、再抗弁1のとおりの事実において、本件訴え提起(平成元年一〇月二五日)以前六か月以内で平成元年七月二二日までに有効な催告がなされたということはできず、時効中断の主張は、理由がない。

三以上によれば、原告の被告飯野幸久に対する請求原因1の貸金債権は、時効により消滅したものというべく、請求原因2のとおりの被告大関英昭の保証債務も、その存否を検討するまでもなく、その付従性により消滅することは、明らかであるから、原告の本訴請求はいずれも理由がない。

四よって、原告の本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担につき、民事訴訟法八九条及び九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官小原春夫)

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